タブレットやスタフを受け渡して走る路線はどこに残っているか
公開日 ・鉄道のデータ
鉄道では、同じ線路の上で列車どうしがぶつからないように、線路をいくつかの区間に区切り、1 つの区間には 1 本の列車しか入れない決まりになっています。この仕組みを閉そくといい、その守り方を閉そく方式といいます。
いまの多くの路線では、線路に流した電気で列車の位置を検知し、信号を自動で切り替えています。しかし一部の路線には、「通票(つうひょう)」と呼ばれる札や輪を運転士が受け取って走る、昔ながらの方式が残っています。この記事では、その方式がどこに残っているかを調べました。
閉そく方式ごとの営業キロ
国土交通省の鉄道統計年報(2023年度(令和5年度))には、事業者ごとに、どの閉そく方式で何 km を運転しているかが載っています。全国で合わせると 27,603 km です。
| 閉そく方式 | 営業キロ | 割合 | 仕組み |
|---|---|---|---|
| 自動閉そく | 17,069.9 | 61.8% | 線路に流す電流(軌道回路)で列車を検知し、信号を自動で切り替える方式 |
| 車内信号閉そく | 581.5 | 2.1% | 運転台に信号を表示する方式(ATC と組み合わせて使われる) |
| 特殊自動閉そく | 5,549.4 | 20.1% | 駅の出入口付近で列車を検知し、駅間に1本の列車だけが入るよう自動で制御する方式。列車本数の少ない線区で使われる |
| 連動閉そく | 4.4 | 0.02% | 駅の係員が閉そく装置を操作し、信号機と連動させて駅間の列車を1本に保つ方式 |
| 連査閉そく | 2.1 | 0.01% | 連動閉そくに、列車が駅間を出たことを確認する仕組みを加えた方式 |
| タブレット閉そく | 40.7 | 0.15% | 駅間ごとに1つの通票(タブレット)を運転士が受け渡して走る方式 |
| 票券閉そく | 38.8 | 0.14% | 通票と票券を組み合わせて、同じ方向の列車を続けて走らせる方式 |
| スタフ閉そく | 201.9 | 0.73% | 区間に1つだけの通票(スタフ)を持った列車だけが走る方式。行き止まりの線区などで使われる |
| その他 | 4,113.8 | 14.9% | 新幹線(ATC による制御)や路面電車などは統計上「その他」に分類される |
いちばん多いのは、列車を検知して信号を自動で切り替える自動閉そく・特殊自動閉そくで、合わせて全体の 82% を占めます。一方、通票などを人の手で扱うタブレット閉そく・票券閉そく・スタフ閉そくは、合わせて 287.9 km(全体の 1.04%)しか残っていません。
3 つの方式の違い
- スタフ閉そく(201.9 km): 区間に 1 つだけある通票(スタフ)を持った列車だけが、その区間を走れます。区間に列車が 1 本しか入らないので、行き止まりの路線や、列車がその区間を往復するだけの路線で使われます。
- タブレット閉そく(40.7 km): 駅と駅の間ごとに通票(タブレット)があり、運転士は駅で前の区間のタブレットを渡し、次の区間のタブレットを受け取って走ります。両側の駅にある装置で、同じ区間のタブレットが同時に 2 つ出ないようになっています。
- 票券閉そく(38.8 km): 通票と「票券」という切符を組み合わせて、同じ方向に続けて列車を走らせられるようにした方式です。
残っている 14 線区
| 線区 | 事業者 | 区分 | 閉そく方式 | その方式の営業キロ | 輸送密度(人/日) |
|---|---|---|---|---|---|
| 名松線 | 東海旅客鉄道 | JR | 票券閉そく・スタフ閉そく | 43.5 | — |
| 由利高原鉄道 全線 | 由利高原鉄道 | 中小民鉄 | タブレット閉そく・スタフ閉そく | 23.0 | 327 |
| 小湊鉄道 全線 | 小湊鉄道 | 中小民鉄 | 票券閉そく・スタフ閉そく | 22.7 | 756 |
| 越美北線(越前花堂~九頭竜湖) | 西日本旅客鉄道 | JR | スタフ閉そく | 21.1 | 282 |
| 津軽鉄道 全線 | 津軽鉄道 | 中小民鉄 | タブレット閉そく・スタフ閉そく | 20.7 | 358 |
| くま川鉄道 全線 | くま川鉄道 | 中小民鉄 | スタフ閉そく | 19.0 | 710 |
| 嵯峨野観光鉄道 全線 | 嵯峨野観光鉄道 | 中小民鉄 | スタフ閉そく | 7.3 | 4,082 |
| 長良川鉄道 全線 | 長良川鉄道 | 中小民鉄 | スタフ閉そく | 6.0 | 388 |
| 銚子電気鉄道 全線 | 銚子電気鉄道 | 中小民鉄 | 票券閉そく・スタフ閉そく | 5.9 | 683 |
| とさでん交通 全線 | とさでん交通 | 中小民鉄 | スタフ閉そく | 5.6 | 2,773 |
| 水島臨海鉄道 全線 | 水島臨海鉄道 | 中小民鉄 | スタフ閉そく | 3.6 | 2,879 |
| 紀州鉄道 全線 | 紀州鉄道 | 中小民鉄 | スタフ閉そく | 2.7 | 239 |
| 大井川鐵道 全線 | 大井川鐵道 | 中小民鉄 | スタフ閉そく | 2.3 | 284 |
| 名古屋鉄道 鉄道線 | 名古屋鉄道 | 大手民鉄 | 票券閉そく | 1.5 | — |
人の手で通票などを扱う方式が残っているのは、14 線区でした。タブレット閉そくが残るのは由利高原鉄道・津軽鉄道の 2 社だけです。JR では東海旅客鉄道の名松線・西日本旅客鉄道の越美北線に残っています。
表の「その方式の営業キロ」は、線区のうち、その方式で運転している長さです。線区の一部だけで残っている場合(行き止まりの末端の区間だけ、など)もあります。
なぜ残っているのか
人の手で通票を扱う方式は、列車を検知する装置や自動の信号がなくても安全に運転できる、仕組みの簡単な方式です。輸送密度の欄を見ると、多くは 1 日の利用が数百人の線区です。列車の本数が少なく、行き違いも少ない路線では、自動化の設備に大きな費用をかけるより、昔からの方式を続けたほうが合理的な場合があると考えられます。
一方で、通票の受け渡しには駅の係員や運転士の手間がかかり、駅を無人にしにくいという面もあります。設備の更新に合わせて、自動化された方式に切り替えた路線も少なくありません。タブレットの受け渡しを見られる路線は、年々少なくなっています。
各線区の閉そく方式や保安設備は、Rail Density Explorer の各線区のページの「保安設備」の欄と、「タブレット・スタフなど旧来の閉そく方式が残る線区」で見られます。
出典
関連するツール
ほかの記事
- 輸送密度が高い路線トップ20
全国の鉄道の線区・区間を2023年度の輸送密度(1日あたりの平均の乗客数)が高い順に並べ、上位20の顔ぶれを調べました。山手線は1日約94万人で、最も少ない区間の約4万7千倍でした。
・鉄道のデータ - JR北海道の線区別の収支(宗谷線・石北線・根室線などの営業係数)
JR北海道が公表している2023年度の線区別の収支から、宗谷線・石北線・根室線・釧網線などの営業収益・営業費用・営業係数を比べ、輸送密度との関係を調べました。
・鉄道のデータ - 地下鉄の営業係数を比べる(東京メトロ・都営・大阪メトロと市営地下鉄)
国土交通省の鉄道統計年報(2023年度)から、地下鉄を運営する10事業者の鉄道事業の営業係数・営業損益・投資の負担を比べました。黒字の事業者と赤字の事業者で何が違うのかを考えます。
・鉄道のデータ