大手私鉄の営業係数を比べる

鉄道会社のもうけ具合を表す数字に、営業係数があります。100 円の収入を得るのに、いくらの費用がかかったかを表す値で、100 より小さければ黒字、大きければ赤字です。たとえば営業係数 80 なら、100 円稼ぐのに 80 円かかり、20 円が利益として残ります。

この記事では、国土交通省の鉄道統計年報(2023年度(令和5年度))で「大手民鉄」に分類されている 16 社について、鉄道事業(鉄軌道業)だけの営業係数を比べました。不動産や百貨店など、鉄道以外の事業は含みません。

16社の営業係数

大手民鉄の鉄軌道業の営業係数(2023年度(令和5年度)、営業係数の低い順)
事業者営業係数(償却後)営業係数(償却前)営業収益(億円)営業損益(億円)旅客営業キロ1kmあたり営業収益(百万円)
阪急電鉄79.863.6980.9198.1143.6683
阪神電気鉄道81.167.6369.469.748.9755
近畿日本鉄道81.265.81,530.3287.1501.1305
東急電鉄81.559.81,597.5295.9110.71,443
小田急電鉄82.060.31,160.0209.2120.5963
東京地下鉄82.562.63,523.2616.6195.01,807
東武鉄道82.964.51,551.0265.7463.3335
京浜急行電鉄87.563.4772.596.787.0888
京阪電気鉄道87.572.1512.763.891.1563
西武鉄道87.869.6987.1120.5176.6559
京王電鉄87.868.4796.096.884.7940
名古屋鉄道87.971.7867.3105.1444.2195
相模鉄道90.661.8355.233.442.2842
南海電気鉄道90.669.9584.454.9154.8378
西日本鉄道91.971.6208.716.9106.1197
京成電鉄93.369.7676.945.1152.3444
阪急電鉄79.8阪神電気鉄道81.1近畿日本鉄道81.2東急電鉄81.5小田急電鉄82東京地下鉄82.5東武鉄道82.9京浜急行電鉄87.5京阪電気鉄道87.5西武鉄道87.8京王電鉄87.8名古屋鉄道87.9相模鉄道90.6南海電気鉄道90.6西日本鉄道91.9京成電鉄93.3100
大手民鉄の営業係数(償却後)

営業係数がいちばん低い(もうけの割合が大きい)のは阪急電鉄で 79.8、いちばん高いのは京成電鉄で 93.3 でした。16 社の中央値は 87.5 で、すべての会社が 100 を下回る(黒字の)結果でした。16 社の鉄軌道業の営業収益を合わせると 16,473.1 億円、営業損益(利益)は 2,575.6 億円です。

表の「償却前」の営業係数は、費用から減価償却費(車両や設備などを買った費用を、使う年数に分けて計上したもの)を除いて計算した値です。償却前と償却後の差が大きい会社ほど、設備にかけた投資の負担が重いことを表します。

なお、東京地下鉄(東京メトロ)は地下鉄の会社ですが、統計では大手民鉄に分類されています。

営業費の中身を比べる

営業費(鉄道を動かすのにかかった費用)の内訳を、営業費に占める割合で比べました。

鉄軌道業の営業費の内訳(営業費に占める割合)
事業者線路保存費電路保存費車両保存費運転費運輸費一般管理費減価償却費
阪急電鉄10.0%5.6%12.2%23.7%15.5%7.2%25.8%
阪神電気鉄道9.1%5.0%6.8%19.5%30.2%9.9%19.6%
近畿日本鉄道9.6%5.9%8.4%27.2%17.6%8.7%22.5%
東急電鉄6.2%4.1%5.6%17.0%22.0%14.3%30.7%
小田急電鉄6.3%3.9%6.6%20.9%16.8%14.5%31.1%
東京地下鉄9.5%6.3%7.3%17.1%26.2%5.9%27.6%
東武鉄道8.3%6.2%10.2%25.3%19.5%4.6%26.0%
京浜急行電鉄6.8%4.3%6.9%21.7%16.0%10.5%33.8%
京阪電気鉄道12.9%5.0%6.5%23.1%21.0%11.4%20.1%
西武鉄道7.8%7.4%7.2%22.1%18.4%13.1%24.1%
京王電鉄8.8%6.3%8.0%20.9%18.5%11.1%26.2%
名古屋鉄道8.7%4.3%8.0%27.0%23.5%7.3%21.1%
相模鉄道7.1%3.1%4.0%18.2%23.3%8.3%36.0%
南海電気鉄道8.1%4.4%7.8%22.8%21.6%9.2%26.1%
西日本鉄道8.9%6.1%8.5%18.8%22.7%8.3%26.7%
京成電鉄7.0%4.2%6.7%21.8%24.5%5.8%30.1%

費目の分け方は、鉄道事業会計規則で決まっています。

  • 線路保存費: 線路・橋・トンネル・駅の建物などの維持補修の作業費と、保線などの現場の職員の人件費
  • 電路保存費: 架線・変電所・信号・通信設備などの維持補修の作業費と、電気関係の現場の職員の人件費
  • 車両保存費: 車両の維持補修の作業費と、車両の検査・修理をする現場の職員の人件費
  • 運転費: 列車の運転に必要な作業費と、運転士・車掌など運転関係の現場の職員の人件費
  • 運輸費: 旅客や貨物の取り扱い、列車の組成・車両の入換えの作業費と、駅などで働く職員の人件費
  • 一般管理費: 会社の運営全体にかかわる費用と、役員や総務・人事・経理などの職員の人件費
  • 減価償却費: 車両や設備などへの投資を、使う年数に分けて計上した費用

減価償却費の割合は、阪神電気鉄道の 19.6% から相模鉄道の 36.0% まで差があります。

差が出る理由を考える

ここからは、統計の数字から考えられることです。

1. 1 km あたりの収入の違い 表の「1 km あたり営業収益」は、路線 1 km あたりでどれだけの収入があるかを表します。路線が短く、そこに多くの乗客が集中する会社ほど、線路や駅の維持費に対して収入が大きくなり、営業係数が下がりやすくなります。ただし 16 社で見ると、1 km あたりの営業収益と営業係数の相関係数は -0.39 で、はっきりした関係とまではいえませんでした。

2. 設備投資の時期 減価償却費の割合が高い会社は、近年、新線の建設・連続立体交差(高架化)・ホームドアの設置・新しい車両の導入などの大きな投資をしている可能性があります。投資が多い時期には償却後の営業係数が上がり、償却前との差が大きくなります。

たとえば、減価償却費の割合がいちばん高かった相模鉄道は、2019 年 11 月に相鉄・JR 直通線(西谷~羽沢横浜国大)を、2023 年 3 月に相鉄・東急直通線(羽沢横浜国大~新横浜)を開業しています。こうした新線の設備や、直通運転のための車両への投資が、減価償却費の割合に表れていると考えられます。

3. 長い郊外の路線 営業キロが長い会社は、都心から離れた利用の少ない区間も抱えています。大手民鉄でも、観光地や地方へ延びる路線を持つ会社は、その区間の維持費が全体の営業係数を押し上げると考えられます。

4. 2023 年度という年 2023 年度は、新型コロナウイルス感染症の流行で減った利用が戻りつつある時期です。定期券の利用(通勤・通学)が多い会社と、定期外の利用(観光・買い物)が多い会社とで、回復の早さが違った可能性があります。単年度の値だけで会社の経営の良し悪しを判断しないよう注意が必要です。

営業係数を読むときの注意

  • 営業係数は鉄道事業だけの値です。大手民鉄の多くは、不動産・流通・ホテルなどの事業で大きな利益を上げており、会社全体の業績とは一致しません。
  • 統計の「鉄・軌道業営業損益表」の値を使っています。会社の決算書のセグメント情報(運輸業など)とは、集計の範囲が違います。
  • 線路を持つ会社と、線路を借りて列車を走らせる会社とでは、費用の構造が違います。

全国の事業者の営業係数は、Rail Density Explorer の「営業係数ランキング」と各事業者のページで見られます。

出典

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