スマホのカメラで何メートル先の顔まで判別できるか(計算編)

街中で撮った写真や動画に、知らない人が写り込むことがあります。遠くに小さく写っているだけなら誰か分からないと思いがちですが、最近のスマートフォンは画素数が多く、思ったより遠くの人まで細かく写っています。何メートル先までなら「誰か分かる」ほど写ってしまうのでしょうか。

この記事では、実際に撮る前に、計算でおおよその距離を求めます。

「誰か分かる」の物差し: 画素密度

写真の中で人がどれくらい細かく写るかは、被写体 1 m あたり何画素で写るか(画素密度、px/m)で表せます。防犯カメラの分野では、国際規格 IEC 62676-4(2014 年版)の「DORI」という考え方で、目的ごとに必要な画素密度の目安が決められています。

水準 画素密度 できること
検出(Detection) 25 px/m 人がいることが分かる
観察(Observation) 62.5 px/m 服装など大まかな特徴が分かる
認識(Recognition) 125 px/m 知っている人かどうか判断できる
識別(Identification) 250 px/m 人物を特定できる

※ 値は、広く使われている IEC 62676-4 の 2014 年版の 4 区分で、FOV Studio と同じものです(顔の幅 16 cm に 4・10・20・40 画素が写る密度)。規格は 2025 年に改訂され(第 2 版)、水準の区分と値が改められています。また、規格を紹介している資料によっては、観察の水準を 62 px/m や 63 px/m と丸めているものもあります。

この記事では、「知っている人が見れば誰か分かる」を認識、「知らない人でも特定できる」を識別の水準と考えます。

画素密度の計算

距離 D の位置で写る範囲の横幅は「センサーの横幅 × D ÷ 焦点距離」で、写真の横の画素数をこの幅で割ると画素密度になります。

画素密度(px/m)= 横の画素数 × 焦点距離 ÷(センサーの横幅 × 距離)

焦点距離 ÷ センサーの横幅は、写る角度(画角)で決まります。つまり、画角と画素数が同じなら、センサーの大きさによらず画素密度は同じです。そこでこの記事では、センサーをすべて 1/1.3型(ハイエンドのスマートフォンの主カメラに多い大きさ)として、35mm判換算の焦点距離で画角をそろえて計算しました。1/1.3型の場合、35mm判換算 24mm(スマートフォンの標準の「1 倍」に多い画角)の実際の焦点距離は約 6.7 mm、横の画角は約 72 度です。

何メートル先まで分かるか

DORI の画素密度の目安を満たす最も遠い距離(センサー 1/1.3型として計算)
カメラ35mm判換算水平画角検出(25 px/m)観察(62.5 px/m)認識(125 px/m)識別(250 px/m)
広角(1倍)・写真 1,200万画素24mm72°111.8 m44.7 m22.4 m11.2 m
広角(1倍)・写真 4,800万画素24mm72°223.7 m89.5 m44.7 m22.4 m
広角(1倍)・動画 4K24mm72°106.5 m42.6 m21.3 m10.7 m
広角(1倍)・動画 フルHD24mm72°53.3 m21.3 m10.7 m5.3 m
望遠(3倍)・写真 1,200万画素72mm27°335.5 m134.2 m67.1 m33.5 m
望遠(5倍)・写真 1,200万画素120mm16°559.1 m223.7 m111.8 m55.9 m

いちばん普通の撮り方(1 倍・写真 1,200 万画素)では、識別の水準を満たすのは約 11.2 m まで、認識の水準なら約 22.4 m までです。10 m ほど先の人なら、知らない人でも特定できるほど細かく写っていることになります。

望遠を使うと、距離はぐんと延びます。5 倍の望遠なら、識別の水準で約 55.9 m、認識の水準なら約 111.8 m 先まで届きます。

一方、動画は写真より画素数が少ないため、距離は短くなります。フルHD の動画では、識別の水準は約 5.3 m までです。

距離ごとの画素密度

距離ごとの画素密度(被写体 1 m あたりの画素数、px/m)
カメラ5 m10 m20 m50 m100 m
広角(1倍)・写真 1,200万画素5592801405628
広角(1倍)・写真 4,800万画素1,11855928011256
広角(1倍)・動画 4K5332661335327
広角(1倍)・動画 フルHD266133672713
望遠(3倍)・写真 1,200万画素1,67783941916884
望遠(5倍)・写真 1,200万画素2,7961,398699280140

表の値が 250 以上なら識別、125 以上なら認識の水準です。1 倍・1,200 万画素の写真でも、20 m 先で約 140 px/m あり、「服装など大まかな特徴が分かる」観察の水準を満たします。

計算どおりに写るとは限らない

この計算は、画素の数だけから求めた「上限の目安」です。実際の写真では、次のような理由で、計算より手前でしか分からないことがほとんどです。

  • レンズの解像力: スマートフォンの小さなレンズは、画素の細かさほどには細部を写せないことがあります。とくに画面の端は甘くなりがちです。
  • 4,800 万画素などの高画素モード: スマートフォンのセンサーには、となり合う 4 つの画素に同じ色のフィルターを付けた「Quad Bayer(クアッドベイヤー)」という配列のものがあります。暗い場面では 4 画素をまとめて 1 画素として使い、明るい場面では処理で元の画素数に戻します。そのため、画素数ほどには細かく写らない場合があります。
  • 手ぶれ・被写体ぶれ・暗さ: 暗い場所ではノイズを消す処理で細部が失われます。
  • 圧縮: JPEG や動画の圧縮で細部がつぶれます。SNS に投稿すると、さらに小さく縮小されることが多くあります。
  • 顔の向きと角度: 横顔や、上から見下ろす角度では、画素密度が足りていても見分けにくくなります。

逆にいえば、計算で「識別できない」となった距離でも、明るく、正面を向いていれば、知っている人には分かってしまうこともあります。数字はあくまで目安として、「思ったより遠くまで写っている」ことを知っておくのが大切です。

写り込んだ人を守るには

人が写り込んだ写真を SNS などに投稿するときは、計算上「分からない」くらい遠くでも、顔を隠しておくと安心です。

  • 写真なら、Web Mask Studio で顔を自動で見つけてモザイクや黒塗りをかけられます。写真はサーバーに送らず、ブラウザの中で処理します。遠くに小さく写った顔は自動では見つからないことがあるので、拡大して確かめ、必要なら手で範囲を指定して隠してください。
  • モザイクの強さによっては、縮小すると元の形が読めてしまうことがあります。「モザイクの粗さで、文字はどこまで読めてしまうか」も参考にしてください。

自分のスマートフォンの値で計算したいときは、FOV Studio で、センサー・焦点距離・画素数・距離を入れると、写る範囲の横幅と画素密度を確かめられます。防犯カメラの設置の目安は「監視カメラで人物を検出・識別できる距離の目安」にまとめています。

出典

関連するツール

ほかの記事